大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和23年(れ)775号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人岡田久惠、小西寛の上告趣意第一點について。

正當の事由なくして、連合国占領軍の物資を入手し、所持することは、占領軍の本土占領目的を阻害する行爲であり、かゝる物資の授受を禁ずることは、昭和二一年三月二四日連合国軍最高司令官の覺書にもとづく同年七月三〇日内務省、司法省令第一號において、汎く国内に布告せられ、次で昭和二二年八月二五日同年政令第一六五號によりこれが収受又は所持を禁ぜられ、これに違反するものは、わが国裁判權をもって、處罰せられることとなったのである。

本件犯行の行われたのは昭和二二年一一月であって、その當時においては右禁令の趣旨は、国内によく周知せられ、ポツダム宣言の誠実なる遵守を誓ったわが国人民としては、ひとしく、占領軍に協力し、その占領目的を阻害することのないようにつとめなければならぬということは、すでに當時においてわが国民の常識であったといわなければならない。

しかして被告人も本件犯行の當時新聞紙の記事等からして、右の程度の認識のあったことは一件記録上うかがわれるところである。論旨は、政令の公布後短日月なること等より當時被告人は、當該行爲が法令上禁止せられているとの意識がなかったと主張するのであるけれども、法の不知は犯罪の違法性を阻却するものでないことは、刑法の規定するところであってかりに、被告人が具體的に、いかなる法令によってその行爲が禁止せられているかを知らなかったとしても、既に前段説明のごとくその所爲の反社會性についての認識のあったことが認められる以上、その所爲について、右政令違反の罪責を免れないことは、當然といわなければならない。論旨は理由がない。(その他の判決理由は省略する。)

よって、刑訴施工法第二條、舊刑訴第四四六條に從い主文のごとく、判決する。

右は全裁判官一致の意見である。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 藤田八郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例